ハラビロクロバチ科の3種(Synopeas & Inostemma )
冬の間に葉裏でよく見かける体長1mm半ほどの小さなハチですが、奇妙な格好をしているのが以前から気になっていました。
ヤツデの葉裏です。この角度でも腹部が細長いことがわかります。
腹部の形がよくわかるような角度で撮るのが難しく、葉脈の上を歩き始めてようやく撮れたのがこの写真です。
小さい上にすぐに動き始めるのでなかなか上手く撮れず、1匹標本になって貰うことにしました。
この倍率になると被写界深度が極端に浅くなるので、少しづつピントをずらせて撮ったものをフォトショップで合成してみました。うまくつながらない部分がぼやけていますが、特徴はわかっていただけると思います。
先が細くなった腹部はおそらく寄主や産卵習性に関係しているのでしょうが、これまでこんな形は写真でも見たことがありませんでした。
(以上、2010年12月22日・明石公園で撮影及び採集)
次は別の日にアラカシの葉裏で見つけた、同種のオスと思われる個体です。
周囲の葉を探すと他にも数匹いましたが、すべて同じ型(多分オス?)でした。
これも1匹標本にして撮影しました。撮影法、倍率はメスと同じです。
腹部第1節か第2節と思われる部分が非常に大きいのが目立ちます。腹部の形以外に触角や脚の色も違いますが、その他の特徴が上のメスらしき個体によく似ているので、おそらく同種のオスとして間違いないと思います。
(以上、2010年12月27日・明石公園で撮影及び採集)
あちこち探してみた結果、BugGuide.Net というサイトに Platygastridae の Synopeas 属として写真が出ているのが上のメスらしきものとよく似ていることがわかりました。
次にその科名で検索すると、今度は名城大学農学部のHPで 「寄生蜂の解説(名城大学農学部昆虫学研究室 山岸健三)」 という資料が出てきて、それによると Platygastridae はハラビロクロバチ科(ハラビロヤドリバチ科)となっています。
話が長くなりますが、上の「寄生バチの解説」の中のハラビロクロバチ科(ハラビロヤドリバチ科)の説明に、「メスではまれに第1背板から長い突起を頭部まで伸ばす種もいる」とあって、Inostemma 属のメスの写真が出ています。実は以前にそれとよく似た突起を持ったハチを撮影していて、これまでそれが何なのか全くわからなかったのです。下がその写真で、2枚目は部分拡大です。
他の角度からも撮っておけば良かったのですが、この一枚しかありません。不鮮明な写真ですが、先にあげたInostemma 属のメスの写真によく似た状態だと思います。(2010年4月9日・明石公園で撮影)
ここでもう一つの疑問は、この奇妙な突起を除けば、最初に出した Synopeas 属のメスではないかと思われる個体にこれがとてもよく似ているということです。「寄生バチの解説」の中では「メスではまれに・・・伸ばす種もいる」とありますが、それを同種の中でそういう個体が出現することもある、と解釈すれば納得できるのですが、そうでなければこれは最初のものとは別の種ということになります。
長くなりましたが、特異な形がずっと気になっていたハチなので、自分なりにわかったことと疑問点をここでまとめてみました。
* 1月5日・追記とタイトル変更 *
これらの蜂についてezo-aphid さんがいろいろ資料を調べてくださり、またその紹介でkurobachi さんから親切にご教示をいただきました。その結果、最初の2種はハラビロクロバチ科・Synopeas属の雌雄、最後のは同じくInostemma属の雌と判明しました。どちらも植物に虫こぶを作るタマバエの卵に産卵するとのことで、Synopeas属の雌の大きな腹部やInostemma属の雌が背中に背負った管の中には産卵管が収められているそうです。詳しくはコメントを参照して下さい。お二人に感謝します。
タイトルを「ハラビロクロバチ科の一種・?」から、表記のように変更しました。
* 1月6日・追記とタイトル変更 *
Kurobachiさんより、訂正のコメントをいただきました。
最初のSynopeas属の2種は、やはり同種の雌雄ではなくそれぞれ別種のメスであるとのことです。ということでここに出した3例はすべて別種ということになり、再度タイトルを変更しました。詳しくはコメントを参照してください。
何も判らない素人のブログにとことん付き合ってくださったKurobachiさん、ezo-aphid さんに深く感謝いたします。
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コメント
曇り空の穏やかな日です。
画像の精細さと撮影角度、名前調べなど、とっても頑張りましたねー。こういう画像を見せていただけるのは嬉しいことですねぇ。有難うございます。これらの解説は、山岸先生にして頂くのが最もふさわしいと思うのですが、素人なりに調べてみました。「Cinii」で属名を検索すると、Esakiaの報文によく似た図が出てきました。Synopeas属雌の触角は先端部が太くこん棒状になっており、腹部の形は、最初の種のように後半が長く突出するもの、2番目の種(オスではないようです)のように太短いもの、がいます。どちらもタマバエ(前者はスギ類の、後者はヤナギ類の例があります)に寄生するようです。3番目は、ご指摘のInostemma属で正解と思いますが、これほど長い鞘を持つものは国内報文には見つかりません(・・・・探索不足ですが)。これも針葉樹(マツ類?)のタマバエ類に寄生するようです。構造がよくわからないのですが、この丸太ん棒の中には産卵管が納まっているのだそうです。この姿から、「物干し竿」を背負って巌流島に向かう佐々木小次郎を連想してしまうのは、私だけ?かなぁ。
表題は「ハラビロクロバチ科の3種(Synopeas spp.、Inostemma sp.)」というのはどうでしょう。属名を入れておけば、プロの眼にとまって種名などのご意見を頂けるかも、の魂胆ですが。
投稿: ezo-aphid | 2011年1月 5日 (水) 11時30分
追伸:日本産昆虫目録をみると、Synopeas は5種、Inostemma は4種が知られ、それぞれトゲムネハラビロクロバチ属、イッカククロバチ属という和名で表現してよさそうです。Inostemma yuasai はムギアカタマバエに寄生するようです。
投稿: ezo-aphid | 2011年1月 5日 (水) 13時01分
追伸2:ランツボミタマバエに寄生するSynopeas属2種の報文に、この属の雌に2つの型があることが示されています(これほど違った形なのに、別属にならないのは不思議です)。山岸先生も連名著者に参加されていますので、信用できる情報です。ただし、画像はおちゃたてさんほど鮮明ではありませんが。 http://www.knaes.affrc.go.jp/kiban/kyubyochu/pdf.53/53-22.PDF
投稿: ezo-aphid | 2011年1月 5日 (水) 15時54分
素晴らしい写真で感激です.Ezo-aphidさんが言われるように上の方はSynopeas属の恐らく雌雄でしょう.雌の方は昔Sactogaster属に入れられていましたが,雄の方はSynopeas属となんら変わらないので,現在はSynopeas属に統一されています.あの膨らんだ腹部の中には長い産卵管がぐるぐる巻かれているものと思われます.
下の方はInostemma属の雌です.女・佐々木小次郎といったところでしょう.背中に背負った管の中には産卵管が往復しているものと思われます.雄の方には背中の管はありません.
どちらの属も種の同定が難しく,何百種類いるのかもわかりません.みんな新種で記載しても構いません.雌がたくさんうようよしている場合には,産卵対象のタマバエの卵を探しているはずです.Gall-maker(虫こぶ形成の)タマバエであれば,植物上に虫こぶがあるはずです.例えば,3月頃,河原でヤナギを探していただければ何種類かの虫こぶを発見することができ,4月にかけてタマバエと寄生蜂のハラビロクロバチが羽化してくるはずです.
投稿: Kurobachi | 2011年1月 5日 (水) 19時09分
追伸
深度のある写真を合成する場合にはHelicon Focusが使えます.直接購入されても結構ですが,私は面倒なので下記の会社から24000円ほどでライセンスを購入しました.
(株)トランス・パシフィック・ネットワーク
〒652-0873 神戸市兵庫区金平町 1-17-15
TEL: 078-681-6575 / FAX: 078-685-0170
inoue@kaigaisoft.com
http://www.kaigaisoft.com
投稿: Kurobachi | 2011年1月 5日 (水) 19時15分
kurobachiさま、お忙しい中、早速にご覧いただき、またご丁寧なコメントを有難うございます。産卵管の納め方が、属によってこんなに違うとは驚きです。大属では種の同定は望めそうにありませんね。雌雄を判別できていなかったので、「ハラビロクロバチ科の2種(Synopeas & Inostemma )」という表題が妥当と思います。
投稿: ezo-aphid | 2011年1月 5日 (水) 19時30分
ezo-aphidさん、こんばんは。またまたお手数おかけしました。
昨年末は連日の強風で野外での虫撮りもままならず、採って来たままになっていた標本を冬休みの宿題のつもりで撮影したり、自分なりに調べたりしていました。と言っても私にはこれくらいが精一杯なので、あとはezo-aphidさんが見てくださるのを待っていたという次第です。
このハチは、冬場に見かける小さなハチの中でも特異な形が印象的で、種名は無理でもせめてその生態の一端を知りたいと思っていたものですが、おかげさまでKurobachiさまからも懇切なコメントをいただき、属名や、またタマバエに寄生するということまで知ることが出来ました。
毎回のことながら、ご助力に感謝しております。有難うございました。
投稿: おちゃたてむし | 2011年1月 5日 (水) 20時50分
Kurobachiさん、
素人の記事に丁寧なご教示をいただき、感謝感激です。
初めてこのハチを撮った時は、あまりに奇妙な格好に驚いたものです。さらにInostemma属と教えていただいた方は、「寄生蜂の解説」に出会うまでは背中の物体が管なのか、ただの突起なのかも写真からは判断できずにいました。
少なくともSynopeas属の方は近所の公園でごく普通に見つかるので、このたびご教示いただいた線に沿ってタマバエのゴールに注意していけば、運が良ければ羽化や産卵に出会うことも出来るかも知れません。そのような知識がないと、こんな小さな虫の生活の一部なりとも目撃するのはまず不可能でしょう。春からの楽しみが一つ増えました。
Helicon Focusについては以前から関心は持っているのですが、これまでは野外での撮影がほとんどだったので、あまり必要を感じていませんでした。しかし今回のような標本の撮影の機会が増えるようなら、懐具合と相談して購入を考えたいと思っています。
これからもたまに覗いていただければ光栄です。有難うございました。
投稿: おちゃたてむし | 2011年1月 5日 (水) 21時27分
訂正:Ezo-aphidさんから個人的にご指摘を受けましたが,上の2種類のSynopeasはどちらもメスで,全く別種でした.訂正いたします.お腹が膨らんでいない方が典型的なSynopeasです.植物の上にとまっていますが,寄主になるタマバエは地中で腐植を食べて生活している種類の方が多いので,これらのハチの寄主も虫こぶ形成性のタマバエとは限りません.
投稿: Kurobachi | 2011年1月 6日 (木) 16時01分
Kurobachiさん、
お手数おかけします。
同じ場所で見つけて、腹部以外とても良く似ているように見えたものですから、同種の雌雄とばかり思っていました。周囲を市街地に囲まれた公園でも、結構多くの種が住んでいるものなのですね。
タマバエについては、当然その名の通りすべて虫こぶを作るものだと思い込んでいました。寄主が地中に住んでいるのでは、その寄生者の生活を垣間見るのも簡単なことではありませんね。
投稿: おちゃたてむし | 2011年1月 7日 (金) 01時03分
tukikです。
コメントを頂き、見に来ました。同科別種の画像が宮崎でも撮れているので、リンクを張らせてもらいました。形状が面白いですね。わたしも寄生バチの解説の写真を見て「こんなのいたらおもしろいのに」と思っていましたが、意外に身近にいる可能性があり、今後が楽しみです。
撮影法もすごいですね。ちょうど小檜山賢二さんの「虫をめぐるデジタルな冒険」という本を読んでいて、それと同じことができるようになってきているのに、驚いています。甲虫などもピントが一度に合わないことが多いので、かなり興味あります。ただし、野外で生きた状態でできないのが残念ですね。
投稿: tukik | 2011年3月21日 (月) 08時44分
tukikさん、こんばんは。
こちらのSynopeas属2種と、tukikさんが撮られた種(これも同属?)と、3種それぞれ腹部の形が大きく異なるのに頭部・胸部・触角などが非常によく似ているのが面白いと思います。
他にどんな種がいるのか、私も楽しみです。
フォトショップでの画像合成については「デジタルな冒険」のような本格的なものではありませんが、簡単に出来て面白い機能ですね。野外の撮影でも被写体が動かなければ、三脚やフォーカシングレールを使えば出来ないことはないでしょうが、条件は限られてくるでしょう。
投稿: おちゃたてむし | 2011年3月21日 (月) 20時49分