ワタムシヤドリコバチ?の産卵
アブラムシのついたシャリンバイの葉を片っ端から裏返して探したあげく、ようやくお目当ての寄生バチの産卵を見ることができました。
嬉しいことに撮影には大変協力的なコバチで、面白い産卵習性を何度か見せてくれました。
まず、アブラムシの若齢幼虫を選んで近づきます。
獲物を見定めると体を反転させますが、面白いのはその時に翅の先端部分を背側に折り畳むことで、同時に腹端から産卵管を伸ばします。ファインダーを覗いていたときは翅端がひとりでに持ち上がって畳まれるように見えて不可解だったのですが、写った画像を見れば腹部背面から伸びた突起が翅を押さえていることがわかります。この突起は産卵管鞘が変形したものだそうです。
そしてアブラムシの体に産卵管を突き刺して産卵。こんな長い産卵管を普段どこに収納しているんでしょうか。また犠牲者のアブラムシがほとんど何の動きも見せないことも不思議です。翅を折り畳むのは産卵の邪魔になるのを防ぐためなのでしょうが、こんな習性は初めて見たので驚きました。
同じ場面をもう一枚。
体長1mmくらいのハチです。素人の絵合わせでは、北隆館の大図鑑に図示されているワタムシヤドリコバチ Aphelinus mali Haldeman (ツヤコバチ科)の特徴にかなりよく一致するので、他に酷似種がいなければこの種だろうと思います。北米の原産で、リンゴワタムシの有力な寄生バチとして世界各地に輸出され定着したとのことで、日本には1930年代に入って来たようです。また、ツヤコバチ科はカイガラムシ類を寄主とするものがほとんどのようですが、この Aphelinus 属はアブラムシ類にのみ寄生するということです。
この Aphelinus mali について検索しているうちに、(社)日本植物防疫協会のサイトでその独特の産卵行動を捉えた動画が見つかりました。
Dr.タカギの昆虫知識・ワタムシヤドリコバチ
ホストのアブラムシですが、ちょっと調べた限りでは種名が分からなかったので近くにいた有翅成虫の写真を出しておきます。
体長約1.5mm、翅端まで2.8mmくらいで、シャリンバイでは普通に見かけます。
(2011年10月28日・明石公園)
* 11月2日・追記 *
ezo-aphid さんより、寄主のアブラムシは1枚目の無翅成虫から判断してユキヤナギアブラムシであろうと教えていただきました。有翅虫では却って判別が難しいということです。
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コメント
こんばんは。
むむむ。これは凄い絵ですね。面白い。翅をあんな感じで折り畳めるなんて感動しました。
しかも後ろ向きに産卵管を刺すなんて。いいもの見せてもらいました。(^^)/
投稿: BABA | 2011年11月 1日 (火) 17時24分
日本にはAphelinus属は8種が分布し、ハウス野菜の主要アブラムシには6種が普通のようです(Takada,2002. Appl. Ent. Zool. 37(2))。・・・・どういうわけか、ワタムシヤドリコバチが載っていないのが残念ですが。それらの判別は、高木さんのサイトで「アブラコバチの検索」として紹介されています。ただし、検索表には翻訳違いがあり「亜前縁脈と前縁の間の長さ」としてるのは、前翅の説明図の「costal cellの長さ」のことです。いつものように画像の見えない部分は無視してくらべると、腹部や脚色に違いがあって、A. gossypiiだけが類似種として残りました。これとの異同を調べればほぼ決まり、と思います。 ですから、表題はこのままでいいと思います。
ちなみに、犠牲者の種類は、1枚目右端の無翅成虫の姿から、ユキヤナギアブラムシでしょう(有翅虫では判別が難しいです)。
投稿: ezo-aphid | 2011年11月 1日 (火) 19時31分
BABAさん、おはようございます。
こんな習性があることは知らなかったので私もびっくりしました。
アブラバチやアブラコバチは犠牲者のマミーを見る頻度から言ってもかなりの数が活動しているのでしょうが、実際に見る機会は少ないですね。
ezo-aphidさん、おはようございます。
少し思い切ってタイトルに種名を入れたのですが、やはり類似種がいるんですか。でも、「表題はこのままで」と言っていただけてひとまず安心です。
ユキヤナギアブラムシは多食性なんですね。寄主からではたどり着けないわけです。また素人判断で、無翅虫より有翅虫の方が判別しやすいように考えていました。いつものことながら勉強になります。ありがとうございました。
投稿: おちゃたてむし | 2011年11月 2日 (水) 06時33分
すばらしい瞬間ですね。翅を折りたたむというのはびっくりです。180度完全に折りたたまれているようで、しわ一つ見あたらないので、相当しなりのある翅ですね。写真ぐらい離れて産卵できれば折りたたむ必要は無いように見えるのも不思議です。
アブラムシは、私の撮影できるサイズの限界に近く、あまり見つけられないのですが、かなりいろいろなコバチが活動していて、面白そうですね。
投稿: tukik | 2011年11月 3日 (木) 20時41分
tukikさん、おはようございます。
おっしゃるように翅の折り畳まれる部分に筋一つついていないのは不思議ですね。かなりしなやかなものなんだろうと思います。また産卵管が非常に長いので、それほど翅が邪魔になるように見えないことも確かです。粘っこい甘露の付着を防ぐためでしょうか。
アブラムシの周りを徘徊する寄生バチ類はよく見かけますが、いずれも小さくて動きが速いので撮りにくいですね。
投稿: おちゃたてむし | 2011年11月 4日 (金) 07時21分