カテゴリー「本」の3件の記事

2019年6月14日 (金)

珪藻美術館~ちいさな・ちいさな・ガラスの世界~

遅ればせながら、話題の本の紹介を。「珪藻美術館~ちいさな・ちいさな・ガラスの世界~」です。
実はしばらく前には買っていて、これは是非当ブログでもご紹介しなければ、と思いつつ、その種の文章は大の苦手なものでついつい後回しになっていました。

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プランクトンや顕微鏡の趣味をお持ちの方にはあらためて紹介するまでもありませんが、著者の奥修さんは珪藻標本の製作・販売をしているミクロワールドサービスの代表で、研究・教育用の標本製作とともに各種の珪藻を様々なデザインで美しく配置した「珪藻アート」を作っておられる方です。本書ではその、顕微鏡でしか見ることのできない珪藻アートの世界を多くの美しい図版で十分に堪能することが出来ます。これは愛好者でなくとも必見です。
本書の構成は大きく三つに分けられて、まず最初に珪藻についての基礎的な知識、次にその珪藻をアート作品に仕上げるまでの呆然とするほど緻密な製作過程、そして最後にその作品を著者自ら撮影された多数の美しい写真と続きます。
言うまでもなく本書の目玉はこれらの驚異的な作品の数々ですが、それとともに全体に大変よく配慮の行き届いた構成で、読み物としてとても魅力的な本に仕上がっています。
本書は福音館書店の「たくさんのふしぎ」という、子供向きの月刊雑誌の中の1冊として刊行されています。そのため文章は読みやすく、漢字にはすべてルビがふってありますが、その内容は本格的なもので、同種の読み物にありがちな安直な単純化や当世風の曖昧な言い回しがどこにも見あたりません。当然あまり日常的ではない言葉や表現も多少は出てきますが、それでいて難しい話を聞いている気が少しもしないのは、対象を知りつくした著者がいかにそれを伝えるかを考え抜き、ひとつひとつの言葉をよく吟味しながら書き進めたものであるためと推察されます。
話の進め方も巧妙で、「私は、ガラスを集め、ならべて、一つの作品をつくるという仕事をしています。」というふうに始まる本文はわくわくするような期待感に溢れていて、大人でも子供でも一気に読んでしまえるでしょう。これらのことすべてが本書が充分な手間と時間をかけて練り上げられたものであるということとともに、著者がその作品の製作と同様の手抜きを許さない真剣さで取り組んだものであることを示しています。
一般に子供に読ませる本は親が選んで買い与える場合が多いようです。この本を手にとったお母さん方(や、お父さん方)は、年少の子には少し難しいと感じられるかもしれません。しかし子供の成長は早く、買った本は何度でも読めるので、美しい図版に興味を掻き立てられれば本文が理解できるようになるまで時間はかかりません。子供に読まれる本にはいかに手っ取り早く受け入られるかということよりも、その子供が本当に興味を持った時に失望させないものであることの方がより重要なのです。本書はそれだけの内容を持っていて、それは同時に大人が読んでも十分に楽しめるということを意味します。

著者は珪藻プレパラート製作の第一人者であるとともに、光学顕微鏡観察・撮影技術のエキスパートでもあります。そのノウハウの一端は長年続けられているブログ「本日の画像」にたびたび紹介されていて、これは私も含め多くの顕微鏡愛好者にとって観察のヒントの宝庫でもあり、教科書ともなっています。まだご存知でない方は是非ご覧ください。

この「珪藻美術館」はとても好評とのことで、すでに在庫も少なくなっているようです。先述のように月刊雑誌なので、出版社の在庫が無くなれば再版はされないので是非お早めにお求めください。
またこのシリーズでは時々、バックナンバーの中から特に人気のあった作品を選び、ハードカバーの単行本として刊行されています。いずれこの作品がその「傑作集」の一冊としてお目見えすることを期待しましょう。

最後に、これで770円は安すぎます。

 

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2014年9月 3日 (水)

「どんぐりの呼び名事典」

このたび世界文化社から「~拾って楽しむ~どんぐりの呼び名事典」(写真・文/宮國晋一)という本が出ました。
この日本で子供のころ、秋の林の中でどんぐりを集めた経験をお持ちでない方はほとんどないと思うのですが、特にどんぐりそのものに関心があるという人は少ないかも知れません。私自身もどんぐりと言えば木の種類によって形が異なり、中には食べられるものもあるという程度の知識しかなく、またそれ以上の興味を惹かれることもありませんでした。昆虫好きの人の中には意外に私と同じような植物音痴の方が多いらしいので、どんぐりに対する認識も同じようなものではないかと思うのですが、そういう人がこの本を一読すれば考えを改めること必定です。
たとえば各樹種について多数のどんぐりの写真が載せられていて、同じ種のどんぐりにも非常に多様な形や色、大きさの違いがあることが分かります。中でも見開き2頁に並べられた様々な形態のクヌギの殻斗は圧巻でしょう。これらの写真はフラットベッドスキャナーで撮影されたということですが、どんぐりの色や質感がとても美しく再現されています。
またどんぐりの成長曲線や時間の経過による色の変化、珍しい多果どんぐりや交雑による殻斗の形の変化、電子顕微鏡による花柱の形、さらに採集や保存のための手引きなど、著者独自の調査研究による知見が随所に盛り込まれていて、非常に多面的で充実した内容のどんぐり入門書になっています。
実はこの本の中の「どんぐりに寄生するタマバチ」というコラムで、以前このブログに掲載した写真を使って貰ったのですが、そのご縁でここに紹介させていただくことにしました。

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著者の宮國晋一さんは「すばらしいドングリの世界」というホームページを運営されている方ですが、そのサイトをご覧になればこの本が長年にわたる詳細な調査の蓄積の上で書かれたものであることが納得されるでしょう。もちろん限られた紙数に収めきれなかった知見も多いはずで、続編が期待されます。
大きめのコートのポケットに入るくらいの大きさでお値段も手ごろなので、ちょうどこれから始まるどんぐりの季節、この本を手に公園や雑木林でも歩いてみるのはいかがでしょうか。

世界文化社刊・A5判 112ページ・定価1620円(本体1500円)
出版社の案内はこちらです。

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2014年7月11日 (金)

「昆虫博士入門」

「日本原色カメムシ図鑑」などでおなじみの全国農村教育協会からこのたび「昆虫博士入門」という観察図鑑が出ました。実は巻末「参考になるサイト」のリストに当ブログも加えられているのですが、だからと言うわけではなく、この本はお勧めです。

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魅力はまず情報量の多さ。全頁多数の生態写真や標本写真とその説明でぎっしり埋められています。昆虫の最大の魅力はその種類と多様性の豊富さですから、絵(写真)の少ない入門書はつまりません。

次に本作りの丁寧さ。昆虫の体の構造から始まってその多様な生態、分類群ごとの解説、そして観察や採集の手引きに至るまで、盛りだくさんの項目がとても手際よくまとめられています。「満を持しての刊行」の言葉通り、著者・編集者が充分に時間をかけて練り上げられたのでしょう。隅々まで行き届いた配慮が窺えます。

本の題名からは子供向きの印象を持たれるかも知れませんが記述は本格的です。もちろん虫好きの子供にも読まれることを想定して作られているのでしょうが、そのためにことさら単純化した説明を用いるというようなことはなく、虫道楽の大人が満足できる充実した内容です。

来週には大型書店の店頭に並ぶそうですから、是非手にとってご覧ください。

出版社の案内はこちらです。

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